周南いのちを考える会 講演会

2002年6月9日
光市民ホール

演題 人生の終わりを全うするために
    〜生と死とユーモア〜

講師 上智大学教授
                   アルフォンス・デーケン先生

 
 「人生の終わり」すなわち、「死」をテーマとしているにもかかわらず、会場は終始、笑いに包まれました。デーケン先生は、これまで日本人がタブー視してきた「死」について、そして「生」についてユーモアをまじえながら語られました。

〜 講演の概要 〜

 人は、死を待つのではなく、自分なりの生を全うするのと同じように、自分なりの死をも全うしなければなりません。人生における最大の試練は、身近な人の死と自分自身の死に直面することです。日本人の死亡率は100%です。(笑)だから、人間らしい死とは何か、人生の終わりを全うするとはどういうことかについて、教育を受けべきです。

1.生と死の意義を考える

 A.「死への準備教育」とは?

 死への準備教育は、生への準備教育です。人間は、肉体的に衰弱してもなお、人のために生きることができます。20世紀は、肉体的生命の延命は成功しましたが、21世紀は、心理的、社会的、文化的な生命といった総体的生命の延命について考えていかなければなりません。        
 それは、クオリティ・オブ・ライフ(生命や生活の質)を高めるということです。そのために、世界各国のホスピスで、音楽療法や読書療法、芸術療法などが行われています。
 たとえば音楽療法では、歌が好きだったある一人の女性は、死ぬ前に8時間かけて歌を録音しました。彼女は、子供たちのために、自分の人生のいろんな場面の思い出を歌と共に語ったのです。患者の死には、2つの側面があります。1つは人間らしい死に方をしたか、もう1つは遺族へのサポートができているかです。この母親は最後まで、創造的に生き、子供たちにも思いやりと愛を示すことができました。

 B.悲嘆教育の果たす役割

 死別体験後の生き方は、自分が選ぶことができます。「共に喜ぶのは2倍の喜び、共に悲しむのは半分の悲しみ」というドイツの諺にあるように、話すことで楽になれ、癒しになります。そして、「大きな苦しみを受けた人は、恨むようになるか、やさしくなるかのどちらかである」というアメリカの人の言葉がありますが、死別の体験は苦しいけれど、それを乗り越えれば、共感できる人間になれるのです。

2.医療関係者の発想の転換

 A.ホスピス的ケアのあり方を考える


 ホスピスは、医療と看護のテーマというだけでなく、社会と文化全体にかかわるテーマです。死にゆく人をいかに大切に見守るかは、その国の文化の尺度を示す、一つの大切な基準になるものだと考えます。
 また、がん告知は、ホスピスケアの前提になりますが、告知は、コミュニケーションの枠の中で考えていくべきです。そして、「する」治療より、そばに「いる」看護が大切です。ボランティアはその点で大切な役割を果たしますが、ホスピス設置の前に、ボランティアの教育が必要です。

 B.患者の希望の変化への対応

  ホスピスに入ることは、希望を捨てるということではなく、患者の希望の対象が変わるということです。あくまでも死のドラマの主人公は、患者自身。患者の希望は何かを知ることが大切です。

 C.「第三の人生」への課題

  死ぬ前に「ありがとう」という言葉を言いましょう。そして、自分自身の葬儀方法を何かの時に、家族に話しておきましょう。それは、愛の道へつながります。

3.心のきずなを結ぶユーモア

  ユーモアがあると、ストレスを緩和することができます。「ユーモアとは『にもかかわらず』笑うこと」(ドイツの有名な定義)です。つらい体験があっても、「にもかかわらず」笑うことは、相手に対する思いやりであり、愛の表現です。
  よりよいターミナルケアを受けられるよう、人生の終わりを全うすることができるよう、努力しましょう。 

           
 
 講演後のティータイムには、50人くらいの人が集まり、デーケン先生は、参加者ひとりひとりの声に耳を傾け、皆さんのさまざまな思いを暖かく包み込んでくださいました。終わりに、ドイツ語で、「リリー・マルレーン」を歌ってくださり、皆さんへの思いがけないプレゼントとなり、しばし余韻に浸りました。

 1000人を越えた入場者は、会員の皆さんのお力もありましたが、デーケン先生言われるところの「何もデーケン」ではなく、まさに"デーケンパワー"によるものだったといえるでしょう。先生のお話が一人でも多くの人の心に残り、ホスピスへの関心につながり、次のステップへの大きな弾みとなればと思います。

                  (山本洋子)


     2002年7月5日発行  周南いのちを考える会 会報第6号より

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NPO法人 周南いのちを考える会