2005年3月14日発行 第16号より
菜の花の中のお遍路さん
前川 育
 春、菜の花の咲く頃になると私の生まれた村では、お遍路さんの歩く姿が多く見られるようになる。四国八十八ヶ所を車やバスで巡るお遍路さんは10〜20万人、歩き遍路は年間1000人だそうである。昔はコンビニもなく、「お接待」という名のもと地元の人が食べ物を施すことで、お遍路さんはかろうじて生きぬくことができたという。その風習が現代でも受け継がれている。
山に囲まれた村で、一人暮らしをしている母から聞くお遍路さんとのふれあいは、心温まるものがある。ある夕暮れ時に、お遍路さんの姿をした若者が玄関に立ち、「何も食べるものがないのでおにぎりを食べさせて下さい。今晩はそこの橋の下で寝ます。」と・・・・・。玄関先でお茶とおにぎりのお接待をしながら世間話をし、翌朝も同じように朝ごはんを作って送り出したらしい。
昨年も、お遍路姿のご夫婦に声をかけ、「お疲れでしょう。少し休んでいかれませんか?」と話しかけて和菓子とお茶でおもてなし。孤独な母のいい話し相手になってくださったようである。「定年になったので、やっとゆっくりできるようになりました。胃がんの手術をして元気になった妻との歩き遍路です。こんなに親切にされたのは初めてでした。」後日、丁寧なお礼状と写真が送られてきたそうである。
ホスピスケア講座の講師をしていただいた宮崎市の市原さんが、新聞のエッセイに、「愛媛県内子町には遍路道が残っている。様々な悩みをかかえて、ただ祈って歩くお遍路さんに、ねぎらいの言葉と一杯のお茶でもてなした。初めて訪れた町なのに、とても懐かしい気持ちになった。ホスピスの理念は、昔から日本の生活の中にあったのだ。」と、私の郷里のことを書いてくださっていた。
菜の花の中、今年もまたお遍路さんに声をかけ、温かい心のふれあいの「お接待」をしているだろう母の姿を想像している。
     愛媛県中予地方の菜の花畑   
                                T雄さん撮影

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NPO法人 周南いのちを考える会