会報記事 2010年4月28日発行 第32号

いのちみつめて10

                             前川 育

 

 「周南いのちを考える会」という、大それた名前をつけて活動を始めたのが2000年。あれから10年が過ぎました。その間、いろいろなことがありました。

 

 私たちを取り巻く医療環境は10年前に比べて、どうでしょうか。良いほうに変わったのか悪いほうに変わったのか、或いは変化がないのでしょうか。おそらく、それぞれの受け取り方の違いや、地域・病院で格差があると思います。

 

患者に優しい病院や、患者のことを思う医療提供者に出会えた人は、満足できる医療を受けることが出来たと感じます。そうではない場合、満足な医療を受けたと感じることができず、後悔や怒りが残ります。現在の医療環境は、そんな状況ではないでしょうか。

 また、患者の意識も人によって違います。「ドラッグラグ」(海外で新薬が先行販売され、国内では販売されていない状態。欧米との発売時間差は約2.5年と言われている)や「治験」のことを知っている患者、知らない患者。情報を集め、主体的にがんと向き合う患者、医師にお任せの患者。情報の渦に巻き込まれる人もいます。

 

10年前に比べ

がん医療は日進月歩ですが、がんになって困っている人、悩んでいる人が少なくなったとは思えません。

 

ある女性のがん患者さん

1昨年、あるがん患者さんと出会いました。再々発して県外の病院で手術。

主治医は、「目に見えるがん細胞は、全部とりました」との説明でした。

患者の立場からは、「全部とれた」と受け取ります。

医師の立場からは、「目に見えないがん細胞は、取れていない」という意味を含めていることがあります。

 この女性は、「目にみえるがん細胞は取れたのだから、治るかもしれない」という望みを持ち、がんが進行してからは自分の病状を認めることが出来なかったようです。後のことを家族に託すこともないまま亡くなり、高齢の母親の嘆き悲しみを目にし、本当にお気の毒に思いました。

主治医が「予後」について納得のいく説明を患者にしていれば、家族とのお別れがきちんとできたのではないでしょうか。

外科医は、死を語ることが苦手です。ここに医学教育の限界があります。「がんになったときから緩和ケア」といわれるようになって数年経ちますが、すべての医療現場でそれが行われているとは思えなかった、苦い思い出です。

 

現在のがん医療の現場

ほとんどの医療者は、限られた時間の中でご自分の時間を割いて、熱心に患者と向き合っておられます。しかし、医師同士の連携・病院間の連携・地域開業医との連携、医師と看護師間のコミュニケーション、医療者と患者間のコミュニケーションが、十分おこなわれているでしょうか。

 

これからの日本の医療

 産科医などの医師不足に始まり、自治体病院の閉鎖・がん医療の地域格差など、いろいろな問題が山積です。お互いの立場を尊重し、医療の連携ができるようになることを願っています。医学部の教育も大切です。

心ある患者中心の医療・確実な医療ができるよう、国も、頑張ってほしい! 

 

今、少し光が

・この最近、がんに携わる医師に対しての「緩和ケア研修」が行われています。

・国立がんセンターがん対策情報センターの「患者必携 がんになったら手にとるガイド」が、今年度からがん患者に配布されます。

・拠点病院には「がん相談支援センター」が設置されています。国も、患者サロンなどの大切さを認識しているようです。

10年前に比べ、がんに関する情報が多くなっています。

・「がん対策基本法」ができて、「がん対策」が進みつつあります。

 

がん対策基本計画にある、「治療の初期段階から緩和ケア」が、どこの病院でも実施され、1日も早く、「がんになっても後悔しない生き方」のできる世の中になるようにと、心から願っています。

そのためにも、私たちは、賢い患者・賢い家族になりましょう!