会報記事 2012年1月17日発行 第36号

新年にあたり
                           
 

                              前川 育

平成24年、新しい年が始まりました。昨年3月の東日本大震災と福島原子力発電所の事故は、未だ解決の道半ばです。亡くなられた約16000人の方、そして行方の分からない3300人余りの方のご家族の心痛はいかばかりでしょうか。直後のショック状態から時間の経過と共に、哀しみや辛さが倍加されているのではと、心配しています。

 そんな状況でも、月日は過ぎていきます。そして、遠く離れて住む私たちは普通の日常生活を送っています。日常生活を送ることができる幸せを感じると共に、心の中に、ご家族を亡くされた方への悼む心を持ち続けたいと思います。

 

さて、私はこの年末年始に、日本のがん医療の貧しさを経験しました。

年末年始は、行政・救急以外の医療機関はお休み。もちろん、がん拠点病院に設

置されている日本中の「がん相談支援センター」もお休みです。

 こんなとき、がん患者が疼痛コントロールの出来ない病院に入院していたとし

たら、どうなるのでしょう。ひたすら、痛みと闘いながら仕事始めを待って、

緩和ケア病棟に転院するか、痛みを我慢する日々か・・・。

知人のAさんは、がんの疼痛のため入院中でした。あまりの痛さのため緩和ケ

ア病棟のあるY病院に緊急入院をお願いし、受け入れをしていただくことになりました。しかし、入院先の病院は、主治医が休暇のため紹介状を書くことを拒否。

患者さんは、痛さ・苦しさが我慢の限界に達しました。その時、心ある看護師

さんの機転で、主治医に紹介状を書いてもらえることになりました。

31日に、緩和ケア病棟に転院。

痛みから解放されたAさんは、「この60年間のお正月で、こんなに幸せなお正

月は初めてです」と涙を流されました。

 

東日本で被害を受けた方の「痛み」、病気の「痛み」、これは実際に体験した人にしかわかりません。しかし、ほんの少しでも理解しようとする感性を持ちたいものと思っている、年の始めです。

       皆さまのご健康とお幸せをお祈りしております。

         今年も、よろしくお願い申し上げます。