2012年7月5日発行 第38号より



       医療とは  〜30年前の体験、そしてこれから〜

                                        前川育

 長男が急性骨髄性白血病とわかった時に、私は29歳・長女は6歳・長男は4歳でした。病名を知らされないままに抗がん剤治療が始まった入院初日、「絶対治らない・・・」と知らされました。
 1年後、長男を「このまま、ここで死なせたくない」と、実家のある愛媛の病院へ転院。薬の副作用でムーンフェイス(顔が丸くなる)になっており、血漿板が少なく鼻出血が続いていました。
いのちの終わりがあるとわかっている重症患者を受け入れてくださった、当時の松山赤十字病院・小児科病棟の皆さまに今でも感謝しています。

小児科部長・主治医・看護婦長(当時は看護婦さんと呼んでいました)・小児科病棟の看護スタッフの見事なチーム医療!   それが30年も前のことです。
主治医のN先生を始め看護婦さんたちは、医療者不信に陥っている長男のこころを何とか開かせたいと、度々病室に来て下さいました。
 恐怖心が薄れるように軽い安定剤を注射し、私や長女の姿が見えるガラス張りの部屋での骨髄穿刺。点滴も失敗しない、上手な主任さん。「主任さんだったら、点滴してもいいよ」と笑顔がでるようになりました。
夜、先生方は病室や廊下に来られて、手品やゲームをして子どもたちと一緒に遊んでくださっていました・・・・・・・。小児病棟の夜は明るい笑い声がありました。もちろん、抗がん剤治療中の子どもは、病室で我慢・我慢・・・・・・・。

 今、思うと「小児がんで苦しんでいる子どもたちへの、愛と思いやり」の行為だったのですね。後年、「抗がん剤治療をしても亡くなってしまう子どもたちへの無力感があった」とお聞きしました。でも私にとっては、小児病棟で楽しそうに遊ぶ笑顔を思いだし、こころが救われています。

 「医療者の愛と思いやりのこころと、お互いのコミュニケーション・患者自身の学び」、それが患者・家族にとっては病気と向き合う大きな支えとなります。


会員さんから

 ご無沙汰をいたしております。いつもご尽力をありがとうございます。
さる○月に、かねてご指導いただいておりました従妹が、闘病力尽きて他界いたしました。

 何度も相談にのっていただき、本人も私たちも前川さんのお蔭で励まされました。本当にありがとうございます。まだまだ、頑張ってくれると思っていた矢先でした。

 自分ががんになった時、家族ががんになったときの心細さ、何をどうしたら良いのか・・・という時に心強い情報を教えていただけることは、たくさんの方の心の灯になる貴重なご活動ですね。
 「その時になったら」ではなく、「平時の有事に備える」心を学んでいきたいと思います。
 これからも「周南いのちを考える会」の企画を楽しみにしております!
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。       (Kさまより)

                       
 
大変ご無沙汰をしております。K町のMです。この3年ほどに父や伯父・友人・知人を亡くしました。父以外は皆、がんでした。 今、ステージ4の知人を見舞っています。

職業柄、人を看取ることが多いですが、むしろ愛する人を亡くした家族に取り入ろうとしている宗教等から遺族を守ることに力を注いでいます。

人の不幸や哀しみを狙ってくる人が多いので、くれぐれもご用心ください。
生きる上で神仏の出番は要りません。牧師の私が言うのですからね。

(緩和ケア病棟見学などで、バスの運転手が必要な時はどうぞお声かけください)                           (Mさまより)

       

第17回日本緩和医療学会学術大会に参加して
                              前川 育

6月22日〜23日、神戸のポートアイランドにある神戸国際会議場・展示場・ポートピアホテルの3か所、15会場で開催された日本緩和医療学会学術大会に参加させていただきました。
女性の姿が目立つ緩和医療学会、つまり緩和医療や緩和ケアは看護師さんの力が発揮される場であろうかと思います。
多くのプログラムの中から、関心のある会場へ移動します。
簡単なメモなので正確さに欠ける点があるかと思いますが、要旨を記します。
(一部、抄録を参考にしています)
*****************************************

会長講演「社会を変えていく力、ひろく ふかく たかく」
           岡山大学大学院 医歯薬総合研究科(緩和医療学講座)

                             松岡順治先生

 「医療の究極の目的は、人々を幸せにすることにある」とのご発言が、医療者からでることに驚きを感じました。
 早い時期からの緩和医療を行うためには、医療者教育と共に患者・家族・一般市民への啓発が大切だそうです。
 そのため、医療者が病院から地域に出て「野の花プロジェクト」という市民啓発運動をし、麻薬の知識・痛みを伝えることがQOLの改善につながる・治癒が期待できなくなった時の在宅療養の大切さを伝えているそうです。

 「医師と地域住民のコミュニケーションができ、すべての医療者が緩和医療のマインドを持つ、それが社会を良い方向に変える力となる。」
 


パネルディスカッション がんを家族にどう伝えどう支えるか 

 @「5歳の娘を主語にして話し合う」ことで、がん終末期の親が娘への病状告知を行うに至ったケース

             国立がんセンター東病院 緩和医療科・精神腫瘍科
             国立がんセンター東病院 看護部
  30代の女性が、遺していく辛さから、5歳の娘には「元気な姿だけを覚えていて欲しい」と願った。体調不良時には、娘との面会を拒否。
 それが、「母として良い親でいたい」「家庭での日常生活を同じように続けたい」「娘が将来、どう思うか心配」という、母親としての心情であろう。
  看護師は精神腫瘍科医師・臨床心理士と相談し、2点のアドバイスを受けた。1)「真実を伝えないことで娘がどういう影響を受けるか」と5歳の娘を主語にして話す。2)娘と家族の今後の人生のことも考えながら話を進める。この2点のアドバイスを受けた。
 その結果、女性患者は娘に今の状況を説明し、家族で残された時間を過ごすことが出来た。
  主治医は、患者中心に物事を考えざるを得ないが、多職種のチームが家族を
 見ることでより質の高いケアができた。


A 多職種によるチャイルドケアプロジェクト
         〜子どもを抱えるがん患者・家族を支える〜
                    国立病院機構 四国がんセンター


  子どものいるがん患者は、自分のことのみならず子どものことで心痛が多い。
入院時や副作用の強い時など、子どもの養育をどうするか、また、病気についてどう説明するかなど悩みは尽きない。がん患者の3〜4人に1人は18歳未満の子どもがいる。子どもにとっても親の病気や死別による恐怖感は想像を絶する。
四国がんセンターでは、2011年に多職種によるチャイルドケアプロジェクトを立ち上げた。
 チャイルドケアの5段階
  1.情報発信
  2.チャイルドケアの案内
  3.子どもの養育者との面談
  4.患者との面談
  5.夏休みキッズ探検隊

  ☆キッズ探検隊が、スライドで紹介され、院内の診察室・検査室・院長室などを職員に案内され、照れている様子が微笑ましかった。
   キッズ探検隊に参加した男児の、その後の感想。
   「安心したよ」「夜中にうなされなくなった」
   「僕は、病院の人からたくさん教えてもらったから、僕が役にたてるのなら何でもしたい」

B 乳がん患者の子どものこころ
                  聖路加国際病院 小児科
                  聖路加国際病院 こども医療支援室
                  聖路加国際病院 乳腺外科

  成人がん診療におけるチャイルドサポートがテーマ。
乳がん患者の子どもの情緒・行動の問題の現状を知ることを目的に、
 こども21人、母146人の協力を依頼。
 母は、子どもの内向性・注意力集中力の問題を指摘。子どもは、心的外傷後
 ストレスは57%あった。考察として、乳がん患者の子どもは、半数以上が情
 緒・行動の問題を呈していることがわかった。
  母親が終末期になっている子どもには、声をかけることが重要である。

C 親ががんであることを何故伝えるのか、どう伝えるのか
      〜伝えた時の子どもの反応を踏まえて〜
                 東京共済病院 がん相談支援センター

 親ががんになったことを子どもに伝える(説明)際のポイント
 ・親ががんになったことや怒りっぽくなっているのは、子どものせいでは
  ないこと
 ・うつる病気ではないこと
 ・がんはしっかり治療を受けることが大切
 伝えた後、ネガティブな反応からポジティブ反応へと変化していたので、
 病気を正しく知り、親と隠し立てのないコミュニケーションが重要。


看護師における看護の魅力
                       北海道医療大学大学院
                        石垣靖子先生

☆メモの中からエッセンスを
・もし、この病院で痛みを訴える患者がいたら、それはナースの責任。
なぜならそこには医師がいないから。(ラ・マートン)
 ・病気が最大の惨事であると同じように、病気の最大の惨事は「孤独」である。
・「私には未来が無いのです。今があるだけ。だから今をどう生きるかが
とても大事なこと」     →患者は、日常の価値を教えてくれる。
 ・看護師は、誰のために医療人としているのか→患者が「ありがとう」と言え
る環境を作る。
・死が迫った時に、看護師に「傍にいて!」
・ナースに出来るコミュニケーション→その人に、優しく触れる。
・患者と同じ方向をみる。
 ・先輩看護師として、後輩に伝えること→「看護師であることに誇りを持ち、
その意味を情熱をもって伝える」
・緩和ケアはどんな人にも提供されるべき→尊厳を守る。

緩和領域で活かすコミュニケーション技術:SHARE
                   群馬県立がんセンター
                    精神腫瘍科・総合相談支援センター

SHAREとは、研究で明らかにされた、日本のがん患者が医師から悪い知らせを伝えられる際に望んでいる態度や行動(コミュニケーション)のこと。
医師がSHAREを活かしたコミュニケーションが出来るように、ロールプレイを用いて実践的に学べるように企画されたものが。厚労省委託事業である「医師のためのコミュニケーション技術研修会」である。
 がん告知は、
 ・精神的に傷つける恐れ
 ・精神的支援体制の不足
 ・時間的不足
 告知の際のコミュニケーションSHARE
 ・S→話しやすい場の設定
 ・H→悪い知らせの伝え方・正直にわかりやすく、はっきりと
 ・A→患者が望む情報を提供
 ・RE→きもちのサポート
インターナショナルレクチャー 早期からの緩和医療
                マサチューセッツ総合病院がんセンター
William Pirl.MD.MPH
 マサチューセッツ総合病院がんセンターでは、オンコロジスト・治療医・緩和医療チームが話し合い、助け合っている。
・がんの医療を受けると同じように緩和医療を受けている。
・抗がん剤治療を行っている時に、緩和医療チームが行くこともある。
・外来受診の際、同じ日に外来緩和医療受診も可能。
・緩和医療チームは、月に1度は必ず患者に会う。
・早期の介入
   医師と緩和ケアチームは同じ階で診療し、緩和ケアチームは医師とは
   違った目線。
   医師が主導でこのようなことが出来た。
・緩和ケアチームはカウンセリングが重要
・症状緩和も重要だが、患者との信頼関係が重要
・医師がリーダー的役割を担い、チームはコンサルト的な役割

                      

22日の早朝、徳山駅から新幹線に乗り何とか会長講演に間に合いました。
抄録集を持っていなかったので詳細がわからないままに参加。他にも聴きたかった発表が数多くありました。
 各地の病院で、緩和医療のことを真剣に考えて実践されている先生方の存在は心強いものがあります。このような取り組みが、点から面へ広がることを願いながら必死でメモをとった充実した2日間でした。
      2日目、B級ご当地グルメコーナーを会場内で発見!
♪笠岡ラーメンと新庄あん餅が美味でした♪



 第20回日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会INとかち

テーマ:あなたの笑顔と寄り添う心    〜届けたい、この十勝から〜
日 時:平成24(2012)年9月8日(土)−9日(日)
会 場:帯広市民文化ホール・とかちプラザ
参加費:4000円
問い合わせ先: 名鉄観光サービス株式会社 帯広支店
担当:田中・今野・大久保・谷藤
TEL : 0155-25-0471   FAX : 0155-21-5010
営業時間  平日9:00−18:00  (定休日 土曜・日曜・祝祭日)
この大会は、5年前、神奈川癌センター放射線部長の職を辞し、<安らかな緩和ケア、豊かな在宅ケア>を実践すべく帯広の地に移り住んだ山下浩介医師が大会長として開催されるはずでした。
昨年度末、右胸部の疼痛が出現し精査。診断は<肉腫>。それからわずか8か月、山下医師のみならず私にとっても、あまりにも唐突な彼の旅立ちでした。混乱のなかで送り出さなければならない痛みは言葉になりません。5年前、山下医師とわずかな時間の中で、限られた言葉で、<緩和医療>について語りあうことができました。そして、私の中で言葉や数値に置き換えることのできない、深く、広く、滲み渡る何かを重く感じ取っている自己に魅入っていました。暗黙知に相当するものと思っています。私たち二人は<緩和医療>の活動拠点として、12000坪の土地に<福祉村>を構想しました。しかし5年前の様々な時代の制約が、私達の構想の展開を足枷として立ち阻みました。そして今秋ようやく着工するところまで漕ぎ着けています。
山下医師の、このとかち大会対するメッセージです。
"あなたの笑顔と寄り添う心 届けたい、この十勝から〜"
とかち大会 大会長鎌田 一  (HPより抜粋)

 
第36回日本死の臨床研究会年次大会
テーマ:いのちの継承と再生―秋の京都で死の臨床を深めるー
日 時:平成24(2012)年11月3日(土)−4日(日)
会 場:国立京都国際会館
参加費:会員7000円   非会員9000円
事前参加申込に関するお問い合わせ:
〒606-8507  京都市左京区聖護院川原町53 
京都大学医学部人間健康科学科 若村研究室  (FAX:075-751-3974)
1977年に発足した「日本死の臨床研究会」は、わが国におけるホスピス・緩和ケアに関する研究会の先駆けです。ホスピス・緩和ケアは、がん患者の「ターミナル・ケア」から始まっています。死に直面したがん患者と家族の全人的痛みに対するケアを考えるための研究会でした。死に至る過程のなかで、患者とその家族が直面する身体的、心理社会的、霊的問題に取り組む研究会であり、がん終末期に焦点が当てられていました。
2002年のWHOによる定義に反映されているように、緩和ケアは必ずしもターミナル・ケアではなく、がんなどの生命を脅かす疾患の初期から関わるべきであるとされるようになりました。意識的ではないにしても、死に関わる諸問題が緩和ケアから遠ざけられているように思えます。「死の臨床研究会」は、このような流れのなかで、死について正面から考える唯一の研究会と言えるでしょう。死に向き合うということは、いのちと向き合うということでもあります。生命は死で終わりを迎えますが、いのちは繰り返され、繋がってゆきます。人の想いが受け継がれ、文化や伝統が引き継がれ、さらに新しいものとして再生されます。いのちは継承され、再生されます。      



☆きららサロン便り☆
 毎週、火曜日と金曜日の「きららサロン」お茶やコーヒーと共に、サロンの空気を和ませるのは「きらら花一輪」です。
ボランティアスタッフの皆さんが、お庭に咲いた季節の花を一輪挿しにそっと・・・・・・・。私は、これが楽しみで「きらら花一輪」としてブログにアップしています。
「花一輪」は、その日のお役目が終われば守衛室に飾っていただいています。 
              

 後記

☆「市民のためのホスピスケア講座」の日程と講師の先生が決まりました。
   別紙のチラシをご覧ください。
☆ 会費の納入をありがとうございます。皆さまからの会費で、会は運営されていますので、今後ともよろしくお願いします。
☆ TO基金のご寄付のご報告は、次号に掲載します。
<後記>
以前、講演会で、「今日は、いい話を聞いたと思って帰っても、1週間もすればほぼ忘れ、1か月で完全に忘れるから、帰ったら即、今日の話の要点をメモするといいですよ」
と、おっしゃいました。その通りですね。日本緩和医療学会の内容を思いだしながら、報告を書きました。そのアドバイスをされた朝日俊彦先生も、日本ホスピス・在宅研究会の大会長をされるはずだった山下浩介先生も、逝ってしまわれました。
先に逝かれた方の、素晴らしい生き方・考え方を見習って生きていきたいと思います。
梅雨の時期です、皆さまご自愛ください。(まえかわ)


「アフラックはNPO法人周南いのちを考える会の活動を応援しています。」

topへ                            

NPO法人 周南いのちを考える会