2005.7.10 up
2005年7月6日発行 会報第17号より 本の紹介
『それでも やっぱり がんばらない』

鎌田 實 著  集英社


 日本語には、こんなにも優しさにあふれた言葉があったのかと、改めて感じた。「わかちあう」「支えあう」「理解しあう」「求めあう」「赦しあう」「愛しあう」「微笑みあう」・・・。優しさの言葉が次々と紡ぎ出される。まさにそれは、「優しさの連鎖」。著者の医療に対する、患者に対する、そして人間に対する優しさがあふれんばかりに湧き上がってくる。

 綴られたほとんどの話が、悲しく辛いのだけれど、そこからは、あたたかなぬくもりが伝わってくる。たくさんのいのちのドラマがあり、大切ないのちを最期まであたたかく包み込んでくれるスタッフがいる。優しさが優しさを生み、その優しさの広がりに、読んでいて、思わずうれし涙が込み上げてくる。「人間ってすごい」「人間っていいな。」と。

 さらに、「優しさの連鎖」は国境を超え、チェルノブイリからイラクへ。どこか歯車がかみ合わなくなってきた日本を、世界を憂い、「人類は、おかしな世界へ紛れ込んでしまったようになった」と警鐘を鳴らす。「憎しみの連鎖ではなく、優しさの連鎖を世界に届けたい」、国境を超えた人と人のつながりを大切にしたいと述べる。

 そんな著者の根っこにあったものは、「1歳で捨てられた」と語る著者自身の悲しみだった。「弱い人の気持ちを理解できる医者になれよ。自分たちのような貧乏な者がどんな思いで医者にかかっているか、忘れるなよ。それだけだ。あとは自由に生きろ」という養父の哲学がいつも著者を後押ししてきた。
そして、一貫して、「がんばらないけどあきらめない。でもやっぱりがんばらない。」と語る。この言葉に、誰もがほっとする。と同時に、不思議と勇気と希望が湧いてくる。がんばらなくいいんだという安心感がいいのだろう。「今日は少しだけ強くなれる。明日はもう少しだけ優しくなれる」一冊である。

 ラジオから流れてくる鎌田先生の穏やかな優しい語りかけに酔いしれながら、講演会で、生の声が聞かれることを楽しみにしつつ・・・


山本洋子

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NPO法人 周南いのちを考える会