2007年5月28日掲載

波多江伸子の「ホスピス・緩和ケア情報(その3)

サプリメントはがんに効く?

 自分や家族が、がん患者になったとき、気になることのひとつに、いわゆる「サプリメント」や「代替医療」を、どう考えるかということがあります。

 がんになったと聞くと、知り合いの誰かが、必ず「○○という健康食品が効くらしいらしいよ」と教えてくれます。「私の友達も、○○を飲んだら3ヶ月でがんが小さくなったんですって」などと言われると、自分も飲んでみようかしらと思ってしまいますよね。
巷には、<末期がんが消えた!奇跡の××療法>という本や、体験者の喜びの声などを集めたパンフレットなどが出回っています。

 病院で主治医や看護師さんに「どうなのでしょうかね?」と質問すると、「そんなに効くのなら、とうにこの病院で使っていますよ」と笑われてしまいます。でも、もしかして再発防止効果があるかもしれないし、副作用がないのなら、飲んだほうが安心じゃないかしら。毎月2万円は高いけど、もし効くのならば安いものじゃないかな・・。う〜ん、迷ってしまいますよね。さて、どうしたもんでしょうか。この際、ちょっと考えてみましょうか。
                       

 最近、医療の世界では、よくEBM(Evidence-based Medicine=根拠にもとづいた医療)という言葉が使われます。お聞きになったことありますか。お医者さんが、われわれ患者や家族に治療法や薬について説明するときも「これはエビデンスがありますからやってみませんか」という風な言い方をされます。で、健康食品や代替医療に関しては「ああいったものはエビデンスが全然ありませんのでね」と否定的に言われるわけです。
 つまり、現在の医療現場では治療や投薬をするときはエビデンス(根拠)が明らかなものを優先するということです。エビデンスというのは、大規模な臨床試験で科学的に実証されたことがらです。じゃあ、これまで私たち、病院にかかっても根拠のない治療をされていたのかしらと怖くなりますが、どうもそうらしいですよ。お医者さんの個人的な経験やアメリカの権威ある病院でやっている治療法だとかで、治療法を決めていたわけです。経験的に効くとされてきた治療を、とにかく逐一検証してデータを出そうという方向に世界の医療が変わってきたのです。
 われわれ患者が、この頃しょっちゅう、「臨床試験に参加してくれませんか」とか「薬の治験ボランティアやってくれませんか」と頼まれるのは、そういうしだいです。今のところ、エビデンスが確率した治療法は3割くらいだとか。

 だからといって、エビデンスがないものは効かないかといえば、そんなことはない。たとえば漢方薬や鍼などの中国医学。何千人かの患者で10年がかりで実証したと威張っている現代医学のエビデンスよりも、もっと効果は詳細に実証されています。だって何千年かの歴史のなかで何億・何十億の病人を治してきたのですから。漢方薬は、その何千年かの歴史が評価されて、日本では治験なしで薬として認められているのですが、そのうち臨床試験をやるのだとか。
 なんだか、愛し合っている恋人同士に「何をどのくらい愛しているのかデータ化してください」というみたいな無粋な感じが多少しませんか。何千年も効いていて、効き方も使い方もわかっているなら、わざわざ現代医学的検証を加えなくても、その時間とお金と労力でほかの研究したら?と思うんですよね。私は、なんでもかんでもエビデンスを求めるのもどうかね〜、と思っています。「効く」というときも、いろんな効きかたがあっていいわけだし・・。もちろん、単なる個人的見解ですが。

 がん患者が希望を託すアガリクスやフコイダンやサメの軟骨などのサプリメントには、効くか効かないかの科学的で実証的な研究はありません。そういう研究をすると、抗がん剤みたいな具合には効かないことが、たちまちはっきりするでしょう。サプリメントを飲んだ人と飲まなかった人を比較して飲んだ人の80%以上でがんが縮小したとかいう結果が出てはじめて「効く」というエビデンスができたことになるのです。
 サプリメントや代替医療の宣伝には必ず、がんが縮小したり消えたりしたという体験談やどこそかの医学博士の推薦文がついていて、インチキくささを助長しているのですが、私は、こうしたサプリメントは、まったくインチキでウソっぱちとは思っていません。でも、1億円の宝くじに当たるくらいわずかの確率かもしれないけれど、当たった人が中にはいるのだと思います。サプリメントを飲むということは夢を飲むということかもしれません。

 抗がん剤の効果は生存時間で判定されるのですが、副作用で苦しんでいても1日でも長く生きたらエビデンスがあることになります。科学的根拠はなくても、サプリメントを飲んで心穏やかに過ごしたい方にはいいかもしれません。
 ただ、サプリメントには副作用がまったくないかといえばそうでもなくて、化学療法中にアガリクスを飲んだ人に、劇症肝炎や肝機能障害が出たとの報告が出ています。でも、余命が少ないのだから、副作用なんてどうでもいいという肝っ玉の座ったかたは全然気になさる必要はないと思います。

                           
 で、私の結論。いちるの希望でも、すがるわらでも、心に持っていたほうが人間は生きやすいので、医者にさじをなげられてもどうしてもなにかしたいという場合は、何をされても他人がどうこういう問題ではないと思います。
ただ、法外に高価なもの、末期がんが治りますと確信を持って勧める商品は、私は敬遠します。人の弱みにつけこんだ商売をやられるのは悔しいし。まあ、すべて、その人の死生観や価値観に照らして、自分に合った生き方をするのがよろしいのではないでしょうか。
 「健康食品の安全性・有効性情報」というのを「国立健康・栄養研究所」のホームページで掲載していますので、関心がある方はご覧ください。



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NPO法人 周南いのちを考える会